Ryugu

Size : left 39.3″x141.2″(100×358.8)cm right 39.3″x141.2″(100×358.8)cm
Material : graphite on traditional Japanese paper, rub on silver powder (URETHANE,ACRYLIC,GRAPHITE)
2014


日本には「浦島太郎」という物語が存在する。

文献上最古となるのは8世紀『丹後国風土記』逸文の 筒川島子 、『日本書紀』の 『雄略記二十二年秋七月』にある 瑞江浦島子、そして、『 万葉集』九巻の 水江浦島子が初見である。

その後、室町時代から江戸時代に成立した短編物語『お伽草子』にて、現在の形の「浦島太郎」に近い形となり、絵巻・能・狂言の題材として浸透し、一般大衆化していった。

童謡であらすじを追うと

むかしむかし浦島は 助けた亀に連れられて 龍宮城へ来て見れば 絵にもかけない美しさ 乙姫様のごちそうに 鯛やひらめの舞踊り ただ珍しく面白く 月日のたつのも夢のうち 遊びにあきて気がついて おいとまごいも そこそこに 帰る途中の楽しみは みやげにもらった玉手箱 帰って見れば こはいかに 元居た家も村も無く みちに行きあう人々は 顔も知らない者ばかり 心細さに蓋取れば あけて悔しき玉手箱 中からぱっと白けむり たちまち太郎はおじいさん

竜宮城にいる間はほんの数日だったが地上に戻ると 自分が知っている者はだれもおらず馴染みの景色はすっかり様変わりしている 思い立って手土産の玉手箱をあけると 浦島太郎は煙を浴びてあっという間に老人と化し、元の現実では、とうに長い年月が過ぎていたことに気づかされるのである。

海に囲まれた日本のような島国では、古来より海からの恵みを多く受け、 潜水技術が未発達の古の人たちにとって、まだ見ぬ海面下の世界には、絵にもかけないような美しい竜宮城がある、と架空の理想郷だったに違いない。 経験活動上の速さが、地球の自転上の時間とは一致せず、それにも勝る存在として千年以上語り継がれているのだ。

昨今めまぐるしい発展をみせるサイバースペース上のMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)には、 現実的に考えるとあらゆる論理上不可能とされるような美しい景観や城郭都市など、人間の想像力の粋を結集させた理想郷が創造されている。

そこではまるで浦島太郎のお話のように現実世界と時間軸が異なり、 実際に行えば、何日もかかるプロセスを、仮想空間では数時間で同等の時間が進行している。時間が過ぎていく感覚がまるで相対的にちがうのだ。

そしてわたしはコンピューターのひずみにあるその景色を屏風に閉じ込めた。 そこには実時間を超えた理想郷・竜宮城がそこにあるからだ。

鈴鹿哲生 ARTWORK [ Ryugu ]
鈴鹿哲生 ARTWORK [ Ryugu ] [ Cell by Cell ]

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